東京高等裁判所 昭和29年(う)1288号 判決
被告人 鄭麗沢
〔抄 録〕
論旨第一点について。
よつて記録を調査し、これに当審で事実の取調としてした証人藤田勇の尋問の結果を参酌して考察すると、空路特に羽田空港より日本国内に入国しようとする者は、航空機の着陸後先ず同空港外貨申告所に於て携帯外貨を申告し、次いで同空港旅具検査所に於て貨物の輸入免許の申請手続を為すべきところ、原判決挙示の証拠によれば、被告人は支払手段たる外貨を密かに輸入しようと企て、朝鮮釜山より米国軍票四千二百弗を携帯して原判示航空機に搭乗し、原判示日時に羽田空港に到着し、先ず同空港外貨申告所に於てはその携帯する米国軍票を申告しないで同所を通過したが、更に同空港旅具検査所に於て税関の免許を受けないで貨物たる右米国軍票を輸入しようとして、税関官吏に発見されたためその目的を遂げなかつたものであることが認められるから、(一)被告人は該米国軍票を大蔵大臣の許可を受けないで輸入し、(二)更に税関の免許を受けないで該貨物を輸入しようとして遂げなかつたものであるとの原判決の認定は相当である。
なる程、記録によれば、被告人は原判示航空機内に於て係員より携帯物件申告用紙の交付を受け、これに前示米国軍票以外の所持品を記載しながら、故ら右軍票の記載をしないで、これを外貨申告所と旅具検査所に於て順次係官に提示し、以て該軍票を国内に搬入しようとしたことが看取し得るのであつて、被告人の右の所為は恰も一個の行為に過ぎないような観がないでもないが、これを前掲証人の証言に徴し按ずるに、前示航空機内に於ける携帯物申告書の作成は右両手続の準備行為に過ぎないのであるから、たとい被告人が右軍票の記載をしなかつたとしても、其の段階では未だ以て右両法違反罪のいずれの実行の着手とも認められないのみならず、前述の如く右一通の旅客携帯物件申告書が外貨申告所に於ける申告手続と旅具検査所に於ける貨物の免許申請手続とに併用されるとしても、右両手続は本来別個独立のものであつて、その基礎を為す両法の立法の趣旨も異るのであるから、右申告書を空港に於ける外貨申告所及び旅具検査所に於て順次提示した時に各別に関係手続の着手ありたるものとみるべく、従つて所論の如く、被告人の原判示所為を一個の行為であつて、外国為替及び外国貿易管理法違反と関税法違反の二個の罪名に触るる場合であるとして、原判決がこれを併合罪として処断した措置を非難する見解は到底採用することができない。論旨は理由がない。